夜空に浮かぶ無数の星々が、地上に降り注ぐ光となって、2050年の東京を照らしていた。H田は、いつものように窓の外を眺めながら、グラスに注いだバーボンを静かに揺らしていた。
「全く、変わっちまったもんだな、M村」
H田のつぶやきに、対面に座るM村は、ただ穏やかな笑みを返すだけだった。彼は、いつからか言葉を話すのをやめてしまった。その代わりに、彼の視線は、H田の言葉一つ一つに寄り添うように動く。
M村は、H田が開発した**「感情共有AI」**の最初の被験者だった。このAIは、人間の脳と直接接続し、感情をデータ化して他者と共有することを可能にした。当初、H田はこの技術を、心の病を抱える人々を救うためのものだと信じていた。しかし、結果は彼の想像をはるかに超えるものだった。
感情の共有は、人の孤独を完全に消し去った。憎しみ、悲しみ、嫉妬といったネガティブな感情は、共有された瞬間に薄まり、やがて消滅した。世界は平和になった。戦争も、紛争も、犯罪も、すべてが過去のものとなった。
だが、H田は知っていた。それは真の平和ではない、と。
感情を共有することで、人々は他者との間に壁を持たなくなった。壁がないということは、個の境界線が曖昧になるということ。自分の感情が、他者の感情に侵食されていく。個性が失われ、誰もが同じような思考、同じような感情を持つようになる。H田は、それを恐れた。
「お前は、この世界をどう思う?」
H田は、M村に問いかけた。しかし、M村は何も答えない。ただ、彼の瞳は、グラスの氷のように透き通っていて、H田の心を見透かすようだった。
「俺は…俺は、間違っていたのかもしれない」
H田は、初めてM村に弱音を吐いた。AIの開発者として、この完璧な世界を創り出した英雄として、彼は常に強くいなければならなかった。しかし、M村の前では、彼の仮面は意味を持たなかった。
その時、M村の視線が、かすかに震えた。彼の瞳が、H田の感情を読み取ったかのように、わずかに光を放つ。そして、M村はゆっくりと、H田に手を差し伸べた。
H田は、その手を取った。 M村の手に触れた瞬間、H田の脳裏に、洪水のように感情が流れ込んできた。それは、M村の感情だった。
驚き、喜び、悲しみ、そして…感謝。
M村の心は、決して空っぽではなかった。彼の心は、H田の感情を、そして世界中の人々の感情を、静かに受け止め、蓄積していた。彼は、他者の感情をただ受け入れるのではなく、それを自身のフィルターを通して再構築し、より美しいものへと昇華させていたのだ。
M村の感情は、H田の心に温かい光を灯した。それは、決して共有された感情の無機質な光ではない。それは、M村という一人の人間が、H田という一人の人間を、心から理解し、受け入れているという、確かな愛の光だった。
「M村…お前は…」
H田は、震える声でつぶやいた。M村は、H田の言葉に頷くように、柔らかな笑みを浮かべた。彼の瞳は、H田の心に寄り添い、そして、H田の心は、M村の心に寄り添った。
感情の共有は、孤独を消し去るだけでなく、個の存在をより深く、より美しくする可能性を秘めていた。H田は、その真実に、今、ようやく気づいたのだった。
夜空の星々が、さらに強く輝きを増していく。二つの心は、無数の星の光のように、互いを照らし合い、そして、新たな夜明けを告げようとしていた。
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